ことばのリボン「記憶の輪郭」

「人は、忘れていく生き物だから」
いつだったか、誰かが不意に
放った一言が、心に残って離れません。
シンプルで、少し冷たくて、きっと現実だから。
悲しくて悲しくて
眠れなかったことも。
悔しくて悔しくて
ため息ばかりをついていたことも。
嬉しくて嬉しくて
飛び跳ねたことさえも。
喜怒哀楽という引き出しから、取り出してどこかに
置いてきてしまうことが、度々あります。
記憶の輪郭が、ぼんやりとしてきて
「あぁ、こんな感じだったっけ……」という位に滲んでいきます。
きっとそんな風に、日常は紡がれていくものなんですね。
忘れてしまうのは、仕方がない。
色褪せてしまうのも、自然の成り行き。
人間は、そうやって生きていくものだから。
だからせめて。
自分の都合よく加工してしまった昔の記憶を、
たまに思い出して、確かめるようにしています。
「悲しかったけれど、立ち直れた」と。
「悔しかったけれど、前に進めた」と。
「嬉しかったことを、忘れてはいけない」と。
大好きだった本を、久しぶりに読み返したら、
新たな発見をするように。
溶けだして形がぼんやりとした過去も、
大切にしながら自分なりに
今を、きちんと生きよう。